弁護士を目指すサラリーマン

Sunday, February 26, 2006

下線(アンダーライン)

「青木君! どこへ」と、雄吉は思わず声をかけた。月夜でもない晩に、夜更けて運動場の闇の中へと歩を運ぶ青木の心が、その時の雄吉には、ちょっと分からなかったからだ。「ちょっと散歩するのだ」といいながら、雄吉の存在などには、少しも注意を払わずに、痩せぎすな肩をそびやかせて、何かしら瞑想に耽るために、闇の中に消えていく青年哲学者――雄吉はその時、そんな言葉を必ず心のうちに思い浮べたに違いない――の姿を、雄吉はどれほど淑慕(しゅくぼ)の心をもって見送ったか分からない。 またその頃の青木は、教室の出入りに、きっと教科書以外の分厚な原書を持っていた。雄吉などが、その頃、初めて名を覚えたショーペンハウエルだとかスピノザなどの著作や、それに関する研究書などを、ほとんどその右の手から離したことがなかった。しかも、それを十分の休憩時間などに、拾い読みしながら、ところどころへ青い鉛筆で下線(アンダーライン)を引いていた。

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